いい湯だな♨(2)
ごあいさつ
病院長
前回、入浴はリハビリテーションの中では難しい部類に入る動作ですが、病棟生活やその後の自宅生活を考えると、とても大事な動作だという話をしました。今回もその続きです。
当法人にはお風呂のタイプが4種類あります。温泉施設のように歩いて入るタイプ、自宅のお風呂のようなユニットバス、身体を洗うシャワーチェアに座ったまま浸かることができる昇降式の浴槽、そして重度の人でもストレッチャーの上に寝たまま入れる機械浴です。この中でも昇降式の浴槽は、洗体が終わりシャワーで流すとすぐに浸かることができるため、お湯に入る時間が長く確保できます。身体介助の量が多くても、ある程度座ることができる人ならゆっくり浸かることができるため、患者さんの満足度がとても高く、長年とても重宝していました。
今回この昇降式浴槽が老朽化したため、開閉式のボックス型入浴装置に入れ替える予定になりました。新しい装置では、毎回湯張り/湯抜きの作業が必要になります。お湯に浸かる時間をどのように確保するか、入浴委員会が機械の選定や入浴作業のタイムスケジュールを見直し、1年がかりで準備を進めてくれました。装置搬入の日程が決まった後に、G7広島サミットの日程が重なることが決まり、慌てて搬入の日程を変更してもらいましたが、先日無事に装置の入れ替えが終わりました。
今回、入浴のタイムスケジュールを見直す過程で、基本にしたのが「しっかり洗ってゆっくり浴槽に浸かる、週3回の満足度の高い入浴」でした。ご自分で入浴できる人は各病棟にある家庭用ユニットバスに毎日入りますが、前回もお話したように入浴というのは難しい動作です。
まずは脱衣所までの移動。杖を持っている場合、着替えを持って歩くという動作が大変です。脱衣もバランスが不安定な場合は座って行います。そして浴室内への出入りは、装具なしで足元が不安定な中で歩くことになります。洗体は手が麻痺などで不自由な場合はループにしたタオルやブラシを使います。浴槽への出入りは、浴室の床が濡れて滑りやすい状態になっているため、手すりが必要です。また浴槽に入るためには足を上げなければなりません。ゆっくり浸かった後、身体が重い状態で浴槽から出て脱衣所まで移動し、濡れた身体をタオルで拭きます。そして蒸気で身体が湿っている状態で服を着て部屋まで戻る、という流れになります。
これだけの動作を安全に、しかも介助で効率よくやるのではなく、出来る動作は練習を兼ねてご自身でやってもらいます。とても時間がかかりますが、自宅での生活に必要な座位・立位・歩行・移乗・更衣などの要素を多く含みますので、リハビリの効果を高めようと週3回の入浴を提供するため、毎日職員は頑張っています。
今から20年前、回復期が始まって間もなくの頃、リハビリ病棟でどのようなケアを実践すべきか、ワークショップ形式の看護師全国研修会が初めて回復期リハビリの協会主催で開催されました。そこで考え出された「ケア10項目宣言」(院長ブログ2015年8月)は、リハビリ病棟でどのような自立支援をすべきか、長年我々にとって大事な指針になっています。当初は「入浴は週2回以上・・・」となっていましたが、2018年に「看護・介護10か条」としてリニューアルされた時に「入浴は週3回以上、必ず浴槽に入れるようにしよう」と変更されました。
現在は患者さんの高齢化だけでなく、人員配置の変更は無いままに重症率が引き上げられことにより、どこのリハビリ病棟も重症化にマンパワーが追いつかず、必要な病棟ケアが十分にできない状況が発生しています。特に入浴を週3回提供し続けるのは大変ですが、入浴を含めたこれらの病棟ケアを徹底することが患者さんの改善につながります。現在は、回復期リハビリ病棟の踏ん張りどころ、といえる状況でしょう。
先日古い資料を眺めていると、1994年の診療報酬改定で新設された、「入院生活リハビリテーション料」というものを見つけました。当時の高齢者医療は、“薬づけ・検査づけ・寝かせきり”と批判され、少ない職員数による対応の不足を付き添い婦に依存するという悪循環に陥っていたところが少なくありませんでした。この状況を打開するため、付き添いの禁止、病棟のマンパワー増大という改革が行われると同時に、食堂、談話室、浴室などの療養環境の整備が進められ、一部の病棟を対象に「入院生活リハビリテーション料」が定められました。
<老人診療報酬 入院生活リハビリテーション料(1994年4月制定)>
療養2群管理を行う療養病棟又は老人病棟に入院している寝たきり老人等に対して、週3回以上入浴を行い、入浴に伴う衣服の着脱、浴場までの移動等の日常生活動作の訓練を行った場合に限り算定する。
入浴についての報酬が設定されていたことにまず驚きますが、それ以上に、今よりずっと病棟のマンパワーが少ない30年前に、高齢者の寝たきり・寝かせきりを防ごうと週3回の入浴をさせようとした当時の人たちの思いが伝わってきます。
考えてみると、リハビリを行う人員配置や社会資源、社会の理解は30年前より現在はずっと恵まれています。我々は30年前の人たちに負けるわけにはいきません。今年度は装置の入れ替えをきっかけに法人全体で入浴を見直し、チームアプローチのレベルアップだけでなく、患者さんの生活の質向上につなげたいと思っています。