続けることの大変さ

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、「一年の計は元旦にあり」と言いますが、いろいろな決意を新たにした人も多いことでしょう。今回は「続けることの大変さ」について話をしたいと思います。
当院には併設のフィットネスジムがありますが、「職員にももっと気軽に使ってもらおう」ということで、一昨年の4月から利用をリニューアルしました。私も学生時代はあれだけ毎日運動をやってきたのに、その後全く運動をしなくなり、体重も順調に増加していました。職員に言った手前自分もやらなきゃいけない、ということもあり、それを機にフィットネスジムで定期的に運動を始めたのですが、それで分かったことがありました。

私達リハビリに関わっている人間は、患者さんに訓練を「やらせて」います。リハビリの処方を出し、ある意味強制的にさせることもあります。でも、やっぱり運動を続けるということはとてもしんどいことです。自分でやってみて改めて、続けることの大変さというのを実感しました。患者さんは今、当院だと土日も含め毎日3時間もリハビリの時間があります。リハビリはたくさんやる方が効果が出ますが、考えてみると過酷な状況です。私の場合、せいぜい週2~3回、多くても4回程度。1回につき20分程度走るだけです。患者さんが行うリハビリ量の5%くらいしかやっていません。私も最初始めたときは良かったのですが、だんだん続けるのがしんどくなってくると、誰も聞いてないのに言い訳をし始めるんですね、自分の中で。今日はちょっと仕事が忙しかったからやめよう、今日は体調が良くないな、など。自分の心の弱さがすごく出るんですよね。

患者さんも、退院して1か月くらいすると、「先生、自主トレを続けられません」と。自分が運動を始める前は、「いや、毎日やらないと効果がないですよ」など、今考えると上から目線でものを言っていたような気がします。自分が走り始めて改めて気づいたのは、「続ける」ということは、言うのは簡単ですが、実行するのはとても大変だということです。「自分のためですからね」などと我々は患者さんには言いますが、患者さんの目は「あんたはできてるの?」と言っているような気さえしてきます。 自分も走り始めてから、言うセリフも変わってきました。「続けるのは大変ですね。いや私もね、この前から走り始めたんだけど、やっぱり毎日やるのはしんどいよね。」って言うような話を患者さんとできるようになりました。医師という立場でなく、そういう時は自分の「本音」でしゃべれます。自分が続けることの大変さを味わい苦しんで、患者さんに共感でき、自主トレを指導するときの物言いが上から目線ではなくなりました。だから職員にも言いました。「続けられない患者さんにつべこべ言う前に自分で毎日走ってみろ」と。でも自分ができないから言わなくて良いわけではありません。我々は自主トレを継続する大切さを患者さんの身体を通じて知っているからです。
外来リハビリに関しても、週1回来る患者さんに対し、「週1回のリハビリだけでは意味がない。それ以外の時間の過ごし方が大事だ」とか、割と偉そうに言っていました。当院では職員利用のリニューアルの目玉として、週1回のヨガ教室が始まりました。当然私も参加しているのですが、参加してみるとびっくりしました。続けることの大変さ私は毎日ストレッチをしているわけではもちろんありませんが、週1回ヨガを行うと、全然身体が違うんです。また自分の意識も変わります。ちょっと硬いなと感じると、自然にストレッチをしたりするようになります。やはり週1回でもやると違うんですね。私はヨガを始めてから外来患者さんに優しくなりました。「週に1回でも来れるなら続けた方が良い。やっぱり専門家にきちんと身体の動かし方・使い方を教えてもらって、普段の生活の中で実践してみる。1週間に1回だけど、積み重ねるとものすごい力になる」、って言うような話をするようになりました。声のかけ方が自分でも驚くくらい変わりました。
患者さんは病気になるとどうしても、心が折れる。つまり続かない理由は身体にあるんじゃなくて、「心」にあると私は思います。本来リハビリは、自分のために自分がやるものです。分かってはいるけれど、なかなかできない。でも、そうさせるために我々専門家はいるんです。プログラムを組んだらその通りに患者さんがやってくれれば、私たちはいなくても良いわけです。リハビリのある有名な先生が仰っていましたが、「身体を通じて心に触れる、心を動かし身体を動かす」。まさにその通りだと思います。結局、患者さんは「自分で」乗り越えていかなければならない。私たちはそのために身体を動かして訓練の方法を教えていたりするわけですが、実は心を支えている、と思います。そういうことは教科書を読んでいても書いていませんし、実践していないうわべだけの言葉はすぐ見透かされてしまいます。
私はリハビリの世界で一番大事なのは、この訓練法が良かった、とかそういうことではなく、どうやったら続けられるのかということを「一緒に」考えてあげることだと思います。残念ながら、そういうことを本気で考えている人は、非常に少ないのではなでしょうか。電流や磁気、ロボットや新しい訓練機器など、新しい方法論はどんどん出てきますが、結局実際に行うのは患者さんです。この先技術が進歩し、自動訓練プログラム作成装置や自動訓練ロボットが開発されたとしても、患者さんの「心」を動かすためには、必ず私たちは必要とされるでしょう。患者さんの心を理解し、共感し、励まして、一緒に喜び一緒に泣いて、それができるかどうかということが、リハビリに関わる私達の存在意義じゃないかな、と思います。去年から走り始めて、そこに対する考え方が大きく変わりました。知らないから、自分でやってないから、患者さんに対して厳しいというか、温かさが無かったんですよね。自分でやって苦しさが少しでも分かると、言葉は厳しくても共感はできるだろう、と思うようになりました。週に数回しかやっていない私が偉そうに言える立場ではありませんが、職員にフィットネス利用を勧めているのは、痩せる痩せないの問題ではなく、自分たちが患者さんにさせていることを実際に身をもって知ってもらいたいからなんです。そうすると考え方だとか患者さんに対するアプローチが必ず変わってくると思うんですよ。そして大事なことに気付くんじゃないかと思います。