一点に絞る
ごあいさつ
西広島リハビリテーション病院
病院長
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
以前新聞に、元ヤクルト・西武監督の、広岡達郎さんの話が載っていました。現役引退後の広岡さんは、ラジオだけでは食べていけなかったため、スポーツ新聞に原稿を書く仕事をもらいました。もちろん選手時代にやった事が無いので、辞書を引きながら原稿を書き、良いと思った文章は暗記をして努力をしました。しばらくたって、ちょっぴり自信を持って出した原稿を見て、新聞社の部長に、「この原稿にはポイントが5つある。どこが一番大切なのか?読者にとってポイントが5つもあると散漫になる。1つに絞って書き直しなさい。」と言われました。広岡さんが考え込んでいると、「“これっ”という一番大事なものは何かと考えて、それについて一生懸命書きなさい。そうしたら後の4つは枝葉としてスーッとまとまる。これは一点絞りと言って、新聞の文章を書くとき、一番大事なところだから覚えておくと良い」と言われたそうです。
これを読んで、自分の似たような経験を思い出しました。私は医師になって3年目の若い頃に、交通事故などで脳を損傷した(脳外傷)患者さんのリハビリを、たくさん担当させて頂きました。リハビリ医は脳卒中や骨折の患者さんを診ることが多いので、貴重な経験ではあったのですが、逆に偏った勉強をしている事にコンプレックスを持っていました。
その頃脳外傷患者さんのリハビリの成果を、学会で発表する機会がありました。たくさん勉強しましたが、学会では厳しい質問も予想されるので、リハビリ医として経験が少ない私はとても不安でした。その時上司から、「お前は今、日本で一番脳外傷の患者さんのリハビリを診ている。何も恐れず自分の考えを言えば良い。誰もお前の意見に文句を言う奴はいないよ。」と言われました。スーッと気持ちが落ち着き、本番では落ち着いて発表できました。
この経験を機に、良い意味でリハビリ医としての自信を持つ事ができました。病気が違うと症状やリハビリの内容は異なりますが、「入院中の患者さんの社会復帰を支援する」というリハビリ診療の根本は、結局同じだったのです。たくさん診療をし、その経験を元に学会発表を行い、それを論文にまとめる。今の私の診療スタイルはこの時に作られました。
今振り返ると、1つのことを無我夢中で進めていく事で、1つの形を身につける事ができたということでしょう。それが直接勉強していない他の事にも、診療や診療のやり方に展開でき、色々な事に自信を持つ事ができたのではないかと思います。何か壁にぶち当たった時、何かを成し遂げたい時、「ポイントを1点に絞る」ことで視界が急に開け、その周辺の問題もどんどん解決することがあります。
新人研修の時期になりました。若い彼らもこの先、壁に当たる時が来るでしょう。その時はこの話を伝えてあげようと思います。