“伝える”ということ

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
ある救急外来での話です。インフルエンザの季節なので、熱のある子供を連れてきた人達でごった返していました。受診に訪れた患者さんは多いのですが、何故か静かです。不審に思った看護師さんが待合室を覗いて見ると、多くの親子が会話無く座り、それぞれがスマホ(スマートフォン)の画面に夢中でした。受診した子供も点滴をされながらスマホのゲームをしているそうです。
これは一場面に過ぎないかもしれませんが、親子でさえ会話をする機会や力が失われ、人に何かを「伝える」力が家庭の中で育っているのか、とても不安になります。
当法人では職員に対し、年度ごとに「行動指針」を掲示しています。行動指針とは、患者さんや利用者さんの安心と満足のため、「自ら」変わっていくことを行動で示すときのスローガンです。自らアクションを起こして、変わっていく・進歩していく、ということです。
この行動指針を、通称「脱・カバ」と呼んでいます。それは、元院長が孫を連れて動物園に行った時、口をポカーンとあけて餌が投げ込まれるのをじっと待っているカバを見て、受身にならず自らアクションを起こせ!という意味を込めたからです

毎回この行動指針には、その時々に一番必要だなと思われる、各界のリーダーの言葉を掲載しています。来年度は、「伝えることで一番大切なのは、どう伝えるかではなく、相手にちゃんと伝わったかである」という、「失敗学」で有名な畑村洋太郎先生の言葉を選びました。

 

この背景には2つあります。1つは昨年の電子カルテ導入です。PCを介してのコミュニケーションが多くなり、直接のコミュニケーションが減る事を危惧していること。もう1つは「病棟内の縦・横の連携が素晴らしい」、とお褒めを頂いたこともありますが(院長ブログ2014年2月「専門化と連携」)、「~と思い込んでいた」、「伝わったつもりでいた」という、「確実な伝達」やその「伝達の確認」が不足している報告が見られることです。
機器が進歩し、伝える手段は便利になりました。しかし便利になったからよく伝わるようになったとは思えません。一番大切なのは、畑村先生の言葉にあるように「本当に伝わったか」ということです。伝える手段をあれこれ考える時間があったら、その時間で伝わったかどうかを1人1人確認してまわった方がよっぽど効果的です。伝えっぱなしにせず、伝えた人をきちんと見守り、伝わっていないと感じたら「助言する」、「伝えた人に内容を言わせてみる」、「実際にやらせてみる」。つまり、頭の中に入ってきた伝言を吐き出させて確認するという作業がとても大切です。命に関わる仕事をしている我々の世界で、コミュニケーションが「伝言ゲーム」のように伝えた内容と伝わった内容が違ってはいけません。伝えた側の意図が伝えられた側に正しく伝わっているか、頭の中がほぼ同じ状態になっているかが大事です。直接(face to face)の確認が必要です。
現場では良い取り組みも始まっています。血糖測定を忘れて食事を配ってしまった、という報告に対して、朝のミーティングで毎日確認をしますが、測定する患者さんの名前を単に読み上げるのではなく、「食事前の最終リハビリの担当者は誰ですか?」、「私です(挙手)」、「その後血糖測定をする看護師さんは誰ですか?」、「私です(挙手)」、「○○さんと□□さんですね。2人で確実に引き継いで下さい」、と皆の前で確認するようにしました。
大事なことは集まって皆で確認する事(院長ブログ2014年4月「ハドルを制するものは…」)。「予定表やシートを各自でよく見て下さい」、だけでは抜け落ちます。1人の力ではなく、皆の力でミスを防ぐ事。効果的であれば、このような良い取り組みを他にも広げていきたいと思います。
このような伝達は、もちろん職員間だけではありません。患者さん・ご家族とは、医療に関するベースの知識が違うので、もっと伝わっていないでしょう。伝わらないときは、より易しい言葉で伝える努力が必要です。