チームは一日にして成らず
ごあいさつ
病院長
先日行われたプロバスケットボールのBリーグファイナルで、地元の広島ドラゴンフライズが初優勝を成し遂げました。球団創設から初優勝までの期間は、カープが30年、サンフレッチェが20年(2012年初の年間優勝)でしたが、ドラゴンフライズはわずか10年、B1昇格4年目での日本一は快挙といえるでしょう。
しかしチームは順調に強くなったわけではありません。創設後は苦労の連続で、2016年のBリーグは2部からのスタートでした。5年前に経営体制が代わり、選手を補強してようやくB1に昇格しましたが、昇格したシーズンは17連敗を記録して勝率が2割を切るなど、その後も低迷が続きました。
昨シーズン、現ミリングHC(ヘッドコーチ)体制2年目にして初のプレイオフトーナメント(チャンピオンシップ)に進出しました。今シーズンはさらなるステップアップを目指し、補強ではなくあえて「継続」を選択しました。しかし、日程の2/3が終わっても勝率は5割程度で、しかも中心選手であるポイントガードの寺嶋選手が怪我を負ってしまいました。
しかしこれが転機となり、組織的守備力を高めてロースコアで接戦を勝ち切る戦いにシフトしてから快進撃が始まりました。その後のリーグ戦を15勝4敗で駆け抜け、最後は地区最大のライバル島根を逆転し地区3位に滑り込みました。そのままの勢いでチャンピオンシップでは他地区優勝チームを次々に撃破し、「下剋上」で決勝に進出しました。スーパースターはいなくても、全員がチームのため献身的に最後まで走りきり、堅いディフェンスを中心に、組織力と強いメンタルで最後は頂点に上り詰めました。長年チームと苦楽をともにした、今シーズンで引退する朝山選手に「最高の景色」を見せ、最高の花道で送り出しました。
今月中旬、当院は病院審査(病院機能の外部評価)を6年ぶりに受審しました。この審査は業務プロセスや医療安全、感染管理などの診療報酬にもあるような基準や体制を評価するだけではなく、倫理、理念、接遇、設備、5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ=教育)なども同様に評価されます。また現場の職種だけでなく“ロジ班”(院長ブログ2020年10月)も審査対象となります。日常業務において、日々組織全体がどのように連携や協業しているかがチェックされ、自分たちを評価(点検)するための理想的な“物差し”といえます。
本来は5年ごとの受審ですが、今回はコロナ禍で受審が1年延期されました。この4年間はコロナウイルス感染症の対応に明け暮れていたため、準備に余裕ができた感じは全くありません。むしろ準備を始めてみると、当院の強みであったチームワークが影を潜め、コミュニケーションや連携が不足しているように感じました。感染拡大予防のため、出来るだけ接触を避けていたツケが出ていたのでしょう。さらに、コロナ禍の影響で組織の閉塞感や疲弊が見られ、現場が自信を失っているようにも思えました。「受審を通じた病院の質向上」という目標に暗雲が立ち込め、何から進めて行けば良いかを考えました。
まず、全ての審査項目(合計127領域)において当院の仕組みや取り組み、特徴を1枚ずつのスライドにして、皆のイメージを共有するところから始めました。そして各領域の自己評価を文章にして、自分たちの特徴や頑張りだけでなく、現在の課題も再認識しました。また「多職種マニュアル」という各職種の動きを可視化したツールも作成しました。
本格的な準備が始まると、スタッフ間、部署間のコミュニケーションや連携がスムーズになり、日常業務におけるカンファレンスの議論も活発になっていきました。さらに課題をどのように解決するかを考え、患者さん・ご家族との連携や、施設間の連携にも改善が加えられました。受審直前は以前にも増して活発なコミュニケーションが行われ、自分たちの業務全体への理解が深まり、現場に自信が戻ってきたのを感じました。こうなれば、あとは見守るだけです。ドラゴンフライズのミリングHCも、勝ち進むたびにチームがまとまって強くなり、既存のメンバーに加えて新たなメンバーが活躍する様子を、きっと頼もしく感じながら見守っていたのでしょう。
本番では、多くの職員が質問に的確に答え、また自分たちの取り組みや特徴について自信を持って十分にアピールしました。コロナ禍で錆びついていたように感じられた、組織としてのコミュニケーションや連携がこの受審を経てよみがえり、とても元気になった感じがします。
審査員の先生方は我々の話をじっくりと聞き、ロジ班の頑張りや、質改善への取り組みが10年以上継続されていることまで褒めてくれました。自分たちの頑張りを認めて頂き、職員にとって最高の経験となったことでしょう。最後に、このブログを10年以上続けていることも労って頂き、ありがとうございました。これからも頑張って続けよう、という気持ちになりました。