分かりやすく伝える

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
数年前、高次脳機能障害の家族会で講師を務める機会を頂きました。その研修会の内容を冊子にするため、「テープ起こしの原稿に目を通して下さい」、と頼まれました。その講演会では、多少なりとも笑いを取りながら分かりやすく話ができたような手応えがありましたので、「一部修正させてもらうかもしれませんが、すぐ目を通してお返しします」と気軽に返事をしました。そこまでは良かったのですが、いざテープ起こしの原稿を読んでみると、「こんなに話が下手だったのか…」と愕然としました。
普段人前で話をする機会が多いので、勝手に今回も上手くいったと思っていましたが、スライド画面の字や絵に助けられている部分が大きかったのでしょう。活字にしてよく読み返してみると、言葉遣いや話のつながりなど、なんとも酷いものでした。講演会の中で、「高次脳機能障害は認知機能の問題ですので目に見えません。患者さん自身が病気であるという自覚を持ちにくいのが特徴です。それを病識の欠如と呼びます」などと話をしていた箇所がありましたが、まさに自分自身の講演に対する「病識が欠如」していました。
 現実を突きつけられたようで少なからずショックを受けましたが、テープ起こしをしてくれた家族会の方々や、当日話を聞きに来てくれた皆さんに申し訳なく感じ、「読んで分かるように、きちんと直そう」と仕事の合間に少しずつ修正しました。結局「一部」では済まず、原形が残らないくらいの「全面的」な修正になり、作業に3ヶ月もかかりました。
専門的な内容を、一般の人たちに分かりやすく伝えるというのは、実は一番難しいことです。
 先月ご紹介した「知って役立つリハビリのお話」という記念誌ですが、マスコミで紹介して頂いたこともあり、多くの方々からお手紙を頂きました。特に一般の読者の方から「読みやすく分かりやすかった」と言って頂けたことがとても励みになりました。「一般の人たちにリハビリを分かりやすく伝える」、それがこの本の一番の目的だったからです。
 スタッフには何度も書き直してもらい、また患者さんやご家族からの意見も参考にさせて頂きました。編集作業は2年の月日を費やしましたが、その苦労のかいがあってか、専門ではない人たちにも本の内容に興味を持ってもらい、読んで頂けたのではないかと思います。
我々は専門分野が異なる人たちが集まったチームで仕事をし、また専門職ではない人たちとも連携します。コミュニケーションにおいては、「何を伝えたか」ではなく、「どのように伝わった」かが大切です。短いプレゼンテーションでさえ、入念な準備が必要です。伝えた「つもり」で満足するのではなく、伝えた相手の理解度を確認しながら、普段から自分たちのコミュニケーションスキルを磨いていきたいと思います。