入院早期の自宅訪問

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
研修医の頃、リハビリ科の医師としての私の楽しみの1つが「家屋調査」でした。家屋調査とは、退院が決まった患者さんの家を実際に見に行って、家の中だけでなく、お風呂場やトイレ、玄関の出入りなど、必要な改修の提案などをするイベントです。あまり言うと怒られるかもしれませんが、学生の頃の社会見学のように、私は病棟以外の「仕事」を毎回楽しみにしていました。
最初の頃はよく分からないまま同行し、測量係や記録係をしていましたが、何度も行くうちに、患者さんの重症度から動きを想像し、どこに手すりをつけ、どのような動線で移動し、どのような改修をすれば良いのかが分かって来ました。一緒に行った患者さんは、以前と勝手が違う状況に戸惑いがあるようでしたが、久しぶりに住み慣れた我が家に帰ったこともあり、どの人も病院では見せたことのない嬉しそうな表情をしていました。
慣れてくると、それ以外のものに目が行くようになりました。部屋の中には、本、置物、絵画、釣り竿、バットやグローブ、登校見守りボランティアの旗などのほか、元気にお孫さんと登山をしている写真や、奥さんと旅行に行って楽しそうに笑っている写真なども飾ってありました。そこには私の知らない“生活”がありました。その人のことを把握しているつもりで、実は全然分かっていなかったのです。
通常我々は、入院した後の患者さんしか知りません。いつの間にか頭の中で勝手に「麻痺があり、杖で何とか歩いている患者さん」というイメージを固定化し、以前の生活についても話を聞くだけで、知識として頭に入っているだけでした。その人の生活に直接触れる機会は、リハビリをする上でとても大事であることに気が付きました。
以前は退院が決まった患者さんの家に行くのが恒例でしたが、最近では入院してすぐに伺うケースが増えてきました。昨年の訪問件数を調べてみると、退院前の訪問より入院早期の訪問件数のほうが多くなっています。
入院早期の訪問では、家屋の状況だけでなく、ゴミ出しの場所、買い物をする近所のスーパー、趣味でやっている畑の場所や状態など、その人の「生活」の情報を動画で撮影してきてくれるため、以前の図面や写真と比べ圧倒的に情報量が増えました。そして初回のカンファレンスでその情報を基に、入院中のリハビリプログラムや退院時の目標、さらには「退院3ヶ月後の目標(2013年11月号参照)」を具体的に議論することができます。
これらを通じて、スタッフの家屋調査に対する意識も、退院前の「家屋改修を目的」とした訪問から、入院してすぐに「その人の生活に直接触れ、より具体的なリハビリや退院後の目標を設定」するための訪問に変化してきたように思います。
去年の今頃はオリンピックに日本中が沸いていました。「オリンピックの舞台で活躍することを想像し、コーチと一緒につらい練習を乗り越えられた」と選手がインタビューで答えていました。患者さんも、住み慣れた家に帰って生活することを想像することで、つらいリハビリを乗り越えられるのではないでしょうか。我々がその「舞台」を早く知ることにより、患者さんと共有する目標のイメージが具体化するだけでなく、何よりもこちらの声掛けの内容が違ってくるものと期待しています。