ライバルは…
ごあいさつ
病院長
私が中学生の頃、日本にF1ブームが巻き起こりました。レーシングドライバーの中嶋悟さんが日本人として初めてF1にフル参戦し、また10年ぶりに鈴鹿サーキットで日本グランプリが開催されたことがきっかけです。バブル経済真っ只中だった多くの日本企業がF1のスポンサーとして名を連ね、日本グランプリには予選・決勝合わせて30万人以上の観客が訪れました。その模様は地上波のゴールデンタイムに放送され、私もF1中継をかじりついて見ていました。
当時のF1で印象深いのは、HONDAエンジンを積んだマクラーレンでコンビを組むアイルトン・セナとアラン・プロストが出演した昭和シェルのテレビCMです。このワールドチャンピオン経験者のドライバーコンビは当時最強で、1988年シーズンは前人未到の16戦15勝を成し遂げました。他チームとは圧倒的に差があり、テレビCMの「ライバルはいない」というキャッチコピーが、とても格好良かったことを今でも覚えています。
結局チームメートのこの二人が最大のライバルでした。マスコミが二人の対決を煽り立てため、競い合うというより憎しみ合うイメージがついてしまいました。プロストが引退した翌年も、話題の中心はいつもこの2人でしたが、セナのレース中の事故死によってこのライバル関係は唐突に終わりを迎えます。F1には格好良い華やかなイメージがある一方で、ライバル関係については嫌なイメージが残ってしまいました。
それから30年が経過し、当時のようにF1中継に熱中することはなくなりました。しかし2021年シーズン限りでの撤退を発表したHONDAが、最終戦前に掲載した新聞広告には胸が熱くなりました。
ありがとうフェラーリ ありがとうロータス ありがとうブラバム ありがとうマクラーレン ありがとうウィリアムズ ありがとうルノー ありがとうメルセデス ありがとうトヨタ
初めてF1に挑戦した 1964年のあの日から今日までの、すべてのライバルに感謝します。
すべての応援してくれた人、すべてのドライバー、厳しい戦いをともにくぐり抜けてきた、レッドブル、アルファタウリ、すべての仲間に感謝します。
じゃ、最後、行ってきます。
この広告では、単にHONDAからF1ファンにありがとう、と述べるのではなく、一番「ありがとう」を言いにくい相手、つまりライバルチームに感謝が述べられていました。F1は激しい競争の世界ですが、HONDAが頑張ってこられたのも、切磋琢磨する相手が居てこそだったのでしょう。ライバル(rival)の語源は「小川」を意味するラテン語(rivus)から派生した“rivalis”で、「川を競い争っている者」という「争う・競う」という意味と、「川を共同で使う者」という「同僚・仲間」という両方の意味があるそうです。
今月、生前に大変お世話になった先生を偲ぶ会に参加してきました。私がリハビリ病院の運営に駆け出しの頃、その先生の講演や病院の取り組みから、たくさんのヒントを頂きました。私にとっていつも目標であり、当院にとっても良きライバルだと思っていました。その先生亡き後、大きなライバルを失ってしまった喪失感がありましたが、その会にはリハビリの質を向上させるために必死に頑張っている全国の多くの関係者が出席していました。その人達と話をしていると、気持ちがとても前向きになり、新たなライバルとして見習っていきたいと思いました。
個人でも組織でも、ライバルはありがたい存在です。このような相手がいるから目標が明確になり、モチベーションや達成感を得ることができます。その人達に感謝の気持を忘れずに、互いに良き仲間、良き競争相手として、切磋琢磨していけたらと思います。