衣・食・住
ごあいさつ
病院長
昔から人間の生活の基本は「衣・食・住」であると言われます。我々リハビリの仕事は、病気になった人たちが早く自宅に戻れるように、そして自宅での生活が長く続けられるように支援をするため、当然のように衣・食・住に関わります。
まず「食」は、高齢化社会を迎え、嚥下(飲み込み)をスムーズに出来なくなった人たちに対する食事がこの10年で目覚ましく進歩しました。噛む力や飲み込む力に合わせた介護用食品や、水分に添加するトロミ剤の種類も大幅に増え、専門店やドラッグストアだけでなく、今では100円ショップでも介護用食品やトロミ剤が売られています。
また「住」は、介護保険が開始されてから、介護用ベッドや手すり、段差解消のスロープなどの種類が豊富になりました。多くのものが介護保険でレンタル可能となり、状態に合わせて専門の福祉用具業者さんが用具を選定してくれます。また手すりの設置やバリアフリー住宅への改修は、多くの業者さんが住宅改修の工事を請け負ってくれます。食事や介護用品、住宅改修は、リハビリの進み具合に合わせて、段階的な対応が出来るようになりました。
それでは「衣」については、どうでしょうか?
更衣動作は、着替える時の姿勢の安定や、袖を引っ張る・ファスナーを上げ下げする・ボタンを留めるといった両手動作など、いろいろな動作が複雑に絡むため、日常生活の中でも難しい動作の1つです。退院時には8割近くの患者さんがお一人で出来るようになりますが、このような理由から着る服は選んでしまいます。
現在、急性期病院では、CSセット(ケア・サポートセット)と言われる、入院に必要な病衣(患者衣)やパジャマのレンタルが当たり前になり、当院入院時にも「レンタルはないのですか?」という問い合わせが増えました。しかしリハビリの観点から考えると、「着替える」というのは単に着やすい服を着るだけではなく、生活にメリハリをつける1日の始まりの大事なイベントです。また洋服はその人らしさが出る大事な役割もあります。
そのため当院では、セットになった衣服をレンタルするのではなく、頻回に来院できないご家族に向けて、持参した洋服を洗濯する「洗濯代行」という形でのサービスを行っています。ある程度更衣動作が上達したら、家に帰って本人の好きな服が着られるように、次の段階の洋服にもチャレンジしてほしいと思います。
最近やっと片手で操作できるような、マジックテープを使用した面ファスナーや、磁石で留められるボタンシャツといった“ユニバーサルファッション” と言われるオシャレを楽しめる商品が登場してきました。しかし我々リハビリ専門職の知識もまだまだで、それらを用いた段階的な訓練が十分にできる環境にはなっていません。退院後のリハビリと連携をしながら、洋服もレベルアップできるよう、我々も努力していきたいと思います。