原点を語り継ぐ

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。

 今月の24−25日に、隣の岡山県で「回復期リハビリテーション病棟協会 研究大会 in 岡山」が現地開催されました。コロナウイルス感染症のパンデミックのため、2020年の札幌、2021年の熊本と、大会中止を余儀なくされましたが、昨年の東京はハイブリッド開催(現地+WEB、院長ブログ2022年2月)として3年ぶりに現地開催が復活し、回復期リハビリの灯は消えること無く継続されました。

 私は今回4年ぶりの現地参加でした。回復期リハビリはどこの病院も年末からクラスター感染に見舞われたため、感染対策には細心の注意を払いながらの開催でしたが、会場には1,200人を超える人が参加し、久しぶりに学会の“熱気”を直接感じることができました。前日に開催された協会の委員会や理事会では、この3年間リモートで画面越しの会議や研修だけでしたので、相手の雰囲気や様子を感じながら、程よい緊張感のある対面コミュニケーションの良さを感じました。

 

 今回は「次のステージとして回復期リハビリ病棟に求められる機能/役割とは」というシンポジウムで、リハビリ専門病院の立場で発表を行いました。私の発表は「継続・向上・発展」をキーワードにまとめました。「向上」とは回復期リハビリの質を追求すること、「発展」とは退院後の地域リハビリを支える拠点として地域全体をレベルアップさせることで、よく話をしている内容です。中でも今回私が一番強調したかったのは、回復期リハビリの原点を語り継ぐという「継続」の部分でした。

 

もう20年以上前になりますが、私は研修医2年目に派遣された病院で、回復期リハ病棟の立ち上げに関わりました。当時のリハビリスタッフは訓練室で患者を待ち、そのための“リハ出し”(病棟から訓練室まで送迎する)を担うスタッフがいました。また訓練は1日合計1時間程度、病棟生活への関わりも希薄でした。特にトイレや入浴については、「それは私達の仕事ですか?」という感じです。しかしこれは決して珍しい例ではなく、回復期リハビリを開始するときには、どこの病院もぶつかる「壁」でした。

 当院をはじめ、各地域で先駆的に回復期リハビリに取り組んだ病院は、どこも苦労しながらマンパワーを増強し、個別訓練と病棟ケアを融合した“リハビリテーション・ケア”に取り組みました。それぞれ院内で様々な抵抗にあったと想像しますが、これを血のにじむような努力で乗り越え、そこから回復期リハビリを代表するような多くの人材が輩出されました。1日3時間・365日の体制が認められたときは、毎日3時間も訓練を「させてもらえる」という、新時代到来のワクワク感がありました。

 しかしこれが当たり前になり、「回復期後」しか知らない若いスタッフが多数を占め、立ち上げの苦労を経験した世代が現場の第一線から退くようになると、「リハビリ提供時間のノルマ」や「病棟ケアを手伝うのはモチベーションが下がる」などが平然と語られ、機能訓練や改善の数値目標のみにスポットライトが当たるようになりました。ちょうど高度経済成長期を支えた世代が引退し、日本の戦後を支えていた仕事が“キツい” と敬遠され、国力の低下に歯止めがかからない現状と、今の回復期リハビリの現状はよく似ています。しかし在宅生活の維持には、トイレや入浴などの“キツい”動作が一番重要なのです。

 

 回復期のリハビリは、単なる機能訓練やお世話ではありません。患者さんが地域生活に戻って困らないように、“集中的に”かつ多くの垣根を乗り越えた“多職種のチームで”リハビリを提供することが最も大切です。設立当時の先人達の“努力”や“願い(マインド)”の上に、洗練されたシステムが乗ったことで回復期リハビリは発展してきました。回復期リハビリが何を乗り越え、何を成し遂げてきたのか、その“原点”を語り継ぐのが、我々世代の役割だと感じています。